“ 二十世紀日本の一つの奇跡だ ”
国際化などということがしきりに言われ、日本人が国内の特殊な状況に閉じこもっていないで世界に向って自己を開くことが求められているようだ。が、そのことがいくら言われても空しい掛け声にしかひびかないのは、そこに具体的な実践例が欠けているからである。真に国際化された人間とはこういうものだと、しかしわたしなら永川玲二の場合を実例としてさし出してみたい。いかなる留保もなくわたしはそうすることが出来る。国際化とはたんに外国語が出来るとか何とかの問題でなく、友愛を以てどんな人間(言語・民族・宗教のちがいを持つ人間)とも共存してゆくすべを探る人間であることを、永川玲二は身を以って証明してみせている。大が小を、多数が少数を、支配するものではない。小も少数者もそのままで大と多の中に共存しうる世界こそが、これからの地球を救う唯一の可能性だと言っている。
永川は鳥取県の生まれだが、日本海側の雪に閉ざされた地方からこういう自由で開かれた精神が生まれたことは二十世紀日本の一つの奇跡だ、とさえ言いたい気がわたしはするくらいである。
中野孝次著
岩波書店 岩波同時代ライブラリー218 著:永川玲二「ことばの政治学」内の解説(P345〜P351)より引用